若手社員お悩み相談所 第9回
先週は少し趣向を変えて私の新入社員の頃のお話をさせていただきました。
入社前に会社の経営が傾き、入ってみればライバル会社に吸収合併されようとしていた私の最初の就職先…。
今週はそんな企業の内部、荒んだ人間関係やデモ行進・ストライキなどについて当時の私の目線からお話ししようかと思います。
デモ行進にストライキ…。いやぁずいぶんとお熱いことで…っていうのが、今の僕らの率直な感想ですねぇ。自分だったら会社のことでそんなに情熱的になれるとは思いませんもん。
とくにデモ行進なんて、ちょっとこっ恥ずかしいというか…ねぇ? ははは…。
あはは、そうだね。確かに恥ずかしいのはわかる気がする…。ところで、小言社長もデモ行進やストライキをしたんですか?
しましたよ。しましたが、会社に入ったばかりですからねぇ。
社歴をバネにした情熱的な思いは残念ながらありませんでした。
30年も前の話で記憶が定かではないのですが、当時A産業は入社すると自動的に労働組合に入ることになっていて、「組合員であるからにはデモ行進もストライキも参加するのが当たり前」という感覚で参加していましたね。
へぇ…じゃあ結構「嫌々だった」ってことですか?
まぁ…そういうことになりますねぇ。
私はそれまで、とくにデモをするようなポリシーを持っていたことはありませんでしたから、行進経験は当然なし。「合併反対」「合併はんたーい」と大手町を練り歩くんですが、恥ずかしくて声が出ないんですよ。
例えるなら、招かれた節分祭の壇上で「鬼は外、福はうち」と大声を出せないのと同じ感覚です。なんと自分は気弱なんだと情けなかったですよ。
デモ行進は、I商事との合併を反対するために行なわれていたんですね。
ええ。対等な合併ではなく、事実上倒産した会社を吸収するための合併でしたからね。
I商事にとってA産業の人間はよっぽど優秀じゃない限り必要なかった。そしてそれをA産業の人間はちゃんとわかっていたんですよ。「I商事と合併すること」それすなわち「大多数の人たちがリストラされること」だとね。
ですから、労働組合はデモ行進やストライキまでしたのでしょう。
なるほど。自分がリストラされるかどうかって話は、社会人にとっては生きるか死ぬかの大問題ですもんね。
いやでも、ずいぶん大規模なデモ行進だったみたいですけど、結果上層部が動いたりはしたんですか?
いや、A産業はそのときすでに事実上倒産していたんですよ。
そして、そんな会社を支えていたのはお金を融資していた銀行でした。その銀行が自立再建は無理と判断した結果の合併です。デモ行進で覆ることはまずあり得ませんでしたね。
しかし、長年A産業で働いてきた人たちの気持ちはどうでしょう。そう簡単には納得できない愛着や思い入れがあったことは想像するに難くありません。だからこそ自立再建を信じて、もしくは自立再建は難しいだろうという気持ちを胸に抱きながらもデモ行進をしていたのでしょう。
そうですか…。結果は見えているのに、なんだかやるせないですね…。
それが…。
しんみりした話に水を差すようで悪いのですが、実は一般社員にとってはそんなに絶望一色というわけでもなかったんですよね。
なんせA産業の財務状況について、一般社員はほとんど知らされていませんでしたから、合併不成立即倒産、合併が覆せない大決定であることを実感し切れていなかったのかもしれません。
えっ、そうなんですか!?
それに先述した通り、I商事との合併すなわちA産業の大量リストラという点だけは明白でしたから、それを阻止するという意味でのA産業の労働組合デモに参加することは、組合員として当たり前の感覚だったというのもあると思います。
このように、本当のA産業の実態を知らないまま、そして私のように、主体性もなくデモ行進に参加していた人も結構いたんじゃないですかねぇ。
あら~…。30年前って言ったら、学生運動とかが今よりも盛んだったみたいだし、私はてっきり組合が一致団結熱い想いを持ってデモ行進をしていたんだと思っていましたよ~。
なんやかんやで、蓋を開ければ色んな立場、色んな想いの人たちがいるんですねぇ。
そうですね。
A産業に愛着を持って自立再建を信じデモ行進した人、自立再建は難しいだろうという気持ちを胸に抱いてデモ行進していた人、私のようにちょっと恥ずかしいなというぐらいの気持ちでデモ行進していた人…。
色々な感情思惑が交錯していたデモ行進だったといえると思います。
そっか…。いやぁそんな話を聞くと、会社の中の人間模様や個々の考え方は、今も昔もそんなに変わらないんだなって思います。
そうそう、社会は色々な考えを持った人たちで形成されています。
本音と建前が渦巻く世界でもあります。
それは昔も今も、そしてこれからも変わることはないのでしょう。
なるほど~。全然想像もつかなかったデモ行進のことが少しわかった気がします。それと社長、ストライキはどんな感じだったんですか?
はいはい、ストライキはですね…っと、また長くなってしまったので次回にお話ししましょうか。
次回はストライキする社員とストライキ破りをした社員たちのお話をいたします。
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