失敗!ビジネス文書劇場 第10回
今回のポイント
まず、当「失敗!ビジネス文書劇場」では、稟議書の形については触れていません。
各社、稟議書の形態は違いますので、皆さんそれぞれのフォーマットに合わせて書いていただければと思います。
ここで詳しくご紹介するのは「中身」です。上におうかがいを立てるというシチュエーションで、どのように文章を書けば心証がいいのか、参考にしていただければと思います。
派遣・バイト従業員採用の件
○○部では10人いた社員のうち3人が直近に退職し、人員欠如のため通常業務だけでも個々人の負担が増大し、部署内の残業時間が前年度同月に比較して平均4~5時間増となっております。現在のところ人員補充の予定はありません。
つきましては、増大する業務の円滑な処理のために、社員を補助する派遣社員・アルバイト【1】 を採用してよろしいかおうかがいします。【2】
【増員によるデメリット】
以上
【1】社員を補助する派遣社員・アルバイト
「社員を補助する派遣社員・アルバイトを採用…」と、最初から正社員ではない採用を提案していますね。このように決め打ちで書かれると、正社員の補充がどうして不要なのか、正社員ではない方が都合が良いのか、そこに何か意図があるのかと勘繰りたくなってしまいます。
正社員、派遣社員、アルバイトといった色分けは、あえてする必要がなければしない方がいいと思います。上に対しての気の回しすぎであれば、それは不要ですよ。
【2】採用してよろしいかおうかがいします。
「採用してよろしいかおうかがいします」とは、それまでの文章に比べて急に弱い印象になり、「あれ?」という感じです。
この流れでいけば、「採用を何卒ご検討の程よろしくお願い申し上げます」と、定番の文言ではありますが、こういった方がいいのではないでしょうか。
【3】【増員によるメリット】
増員についてのメリット・デメリットを列挙し、だからよろしくお願いしたいのだと言いたい気持ちはわかります。
しかし、そんなことをわざわざ論じなくてもわかってるよ、と思われてしまいそうな気もしますね。
人員の補充について
我が部から一気に3人の退職者が出てしまい、10名から7名に減ってしまいました。そのため通常業務だけでも個人の負担が増えているのが現状です(通常業務で部署の残業時間が4時間~5時間)。
我が部の現在の個人負担を減らすため、他部署から3名の異動をお願いしたくおうかがい申し上げます。【4】
また、業務には波があるので、我が部の業務が現在の7名で十分であると判断した場合には元の部署に戻ってもらい、忙しくなってきた(個人の負担が増えてきた)際には負担に応じた人数の異動をお願いしたいと考えています。【5】
中途採用(正社員)や派遣社員の雇用をせずに済むので、人件費が新たにかかることもなく、また残業時間も減るので会社としてのメリットもあるのではないかと思います。何卒、よろしくお願い申し上げます。
以上
【4】他部署から3名の異動をお願いしたくおうかがい申し上げます。
【5】業務には波があるので、我が部の業務が現在の7名で十分であると判断した場合には元の部署に戻ってもらい、忙しくなってきた(個人の負担が増えてきた)際には負担に応じた人数の異動をお願いしたいと考えています。
「3名減ってちょっと大変なんだよ~。どうしても忙しいときは他部署から人出してくんない? 忙しくないときはいいからさ」というような、ずいぶん軽い調子に聞こえます。そんなに自分の都合のいいようにことが運ぶとも思えません。
「人件費が新たにかかることもなく…」といっても、「忙しくないときはいらないよ」ということが前提なのであれば、そもそも3名減っても問題ないのではないか、それが正常な状態なのではないかと思われてしまいそうです。もうちょっと表現を考えないといけませんね。
○○部人員補充のお願い
○○部では同時期に3人の退職者が重なり、個々人の負担が増え、残業時間が連日4~5時間という状況となっております。部員の士気が下がり、作業効率の悪化というケースも出ております。
効率よく円滑に作業を進められるよう、人員補充についてご検討していただきたくお願い申し上げます。
以上
文章量が少ないことが、かえって窮状を切々と訴えてくるような感じがします。
この手はありだと思いますよ。
では最後に、小言流の文章をご紹介いたします。
欠員補充のお願い
今年度上半期で3名の退職者が出てしまいました。部員一同協力して業務を遂行して参りましたが、予想していなかったこととはいえ、今年度あと3ヶ月を残しかなりの疲労度に達しています。早急の欠員補充をお願い申し上げます。
以上
企業は余剰人員を嫌います。余剰人員=無駄、生ぬるい経営と評価されてしまうからです。ということは、現状社内では、予想しなかった退職者の欠員に充てる人員は存在しないということになります。今回の設定も欠員補充が未定です。
会社としては、欠員補充をすることなく業務が廻れば、人件費削減を達成したことになりますからね。黙っていては欠員分はもともと余剰人員であったと解釈されてしまうかもしれません。
かといって、欠員が出るやいなや欠員人数分の増員要求を出すのも、部員が何の手立ても工夫もしていないととられてしまうかもしれません。
ですから、「3名の退職者が出たあとも、みんなで頑張ってやり繰りしていたんです。でも、もうそろそろ何とか補充してもらいたいんです」という、そんな調子にしてみました。
あまりに直球すぎてもいけないし、あまりに変化球を多投してもいけない。
ほどよいバランスというものが必要ということになります。難しいことなんですけどね。
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